特別鼎談

特別鼎談
和國商店 完成記念鼎談
内野友和×隈研吾×池田浩和

循環型建築日本職人

「優れた技術を持つベテラン板金職人が長く輝き続けられる場を作りたい」そんな想いから始まった和國商店プロジェクト。東京都東村山市の商店街にある築52年の木造建築物をリノベーションし、熟練の板金職人が手作業で作った工芸品の制作販売を行う和國商店が2024年1月にオープンしました。

今回は、和國商店プロジェクト発起人であり板金工事を担当したウチノ板金代表取締役・内野友和氏、建物と内装のデザインを担当した建築家・隈研吾氏、設計施工を担当した岡庭建設の専務取締役・池田浩和氏の鼎談が実現しました。

完成した和國商店を前にそれぞれの視点から日本の職人と「循環」をテーマに語っていただきました。

PROFILE

人物紹介
板金職人

内野友和 Tomokazu Uchino

1979年、東村山市出身。板金職人の父の背中を追いかけ、高校卒業と同時に弟子入りした現役の板金職人。和國商店発起人であり、今回のプロジェクトでは企画・板金工事を担当。平成元年に父の内野國春がウチノ板金を設立し、平成26年には株式会社ウチノ板金を設立。その際、代表取締役に就任した。その後、和國商店を立ち上げ、板金技術を用いた折り鶴やペーパークラフトブランド「Oxygami」とのコラボ作品を手掛ける。

一級建築士、デザイナー

隈研吾 Kengo Kuma

1954年、横浜市出身の建築家。和國商店プロジェクトでは、建物と内装デザインを担当。1990年に隈研吾建築都市設計事務所を設立し、慶應義塾大学教授、東京大学教授を経て、現在は東京大学特別教授・名誉教授である一方、40を超える国々でプロジェクトが進行中。自然と技術と人間の新しい関係を切り開く建築を提案し、国立競技場、高輪ゲートウェイ駅、歌舞伎座など実績多数。主な著書に『⽇本の建築』(岩波新書)・『全仕事』(大和書房)・『点・線・面』(岩波書店)等。

一級建築士、デザイナー

池田浩和 Hirokazu Ikeda

岡庭建設専務取締役、一級建築士。和國商店プロジェクトでは、設計・施工を担当。耐震性・省エネルギー性が高いOKANIWA STYLEの家の温熱環境は、東京都が推奨する「東京ゼロエミ住宅」や「認定低炭素住宅」の認定基準を担保しており、省エネルギー多摩産材を使った家づくりコンクールでは、二度の優秀賞を受賞。令和元年度の「住生活月間」における功労者表彰では国土交通大臣賞を受賞。

板金技術を用いた建物への挑戦

内野友和(写真左)隈研吾氏(写真中央)池田浩和氏(写真右)
内野友和(写真左)隈研吾氏(写真中央)池田浩和氏(写真右)
内野

今回和國商店のデザインをしていただたいたのは、岡山県の植田板金店さんが僕がつくった板金で折った鶴を隈さんにお渡ししたことから、幾つものご縁が重なって、一緒にお仕事することになったんですけど、ずっと気になっていたのは、なんでこの依頼を引き受けてくれたのかなって。

日本の板金って1000年以上の歴史がある技術で、ウチノ板金さんの折り鶴も細部まで見させてもらったけど、感動したよ。僕も日本の板金技術を駆使して世界に誇れるものを作りたいとずっと思っていたところへ和國商店のオファーをもらって、興味があったから引き受けようと思ったね。

内野

和國商店では、板金技術を前面に押し出し、あらゆるものを板金で作成して、隈さんには普段は板金で作らないものや最終的にはランプシェードまでデザインしていただきましたが、実際に完成した建物を目にした第一印象はいかがですか。

隈研吾氏デザインのランプシェイド
隈研吾氏デザインのランプシェイド

板金の緑青が印象的な建物だよね。緑青の風化した時間の要素が加わって、図面以上の迫力を感じられる建築物になったと思うな。

内野

今回のリノベーションで使用した板金は、広島の神社で使用されていたものを再利用していて、古いものになると100年前くらい前のものもあるみたいです。

普段の建築は、板金といえばガルバリウム鋼板を使うことがほとんどで、銅板や真鍮のような異素材を使用する経験はあまりないので、僕らも勉強になりました。外壁は、神社から剥がしてきた銅板を平板にならして、水洗いして、汚れを落として、線を引いて、切断、折り曲げて、「変則的な五角形」を立体加工をしたものを貼りつけること700枚・・・骨の折れる作業でしたが、板金の新たな可能性を感じました。

青葉商店街に建つ、和國商店
青葉商店街に建つ、和國商店

真鍮の板金も綺麗だね。伝統建築で使用されていることはあっても、現代建築だと見る機会がないじゃん。真鍮の板金で厚みが0.4mmのものなんて初めて見たけど、何とも言えない柔らかさが生まれていて、新鮮だったよ。

板金の面白さは、プロダクトも内装も外装もできて、汎用性が高いところが他の建築にはない魅力だし、木材や板金みたいに作り変えられるというのが日本建築の醍醐味だよね。

埋もれていた商店街の宝をリノベーションで蘇らせる

内野

今回リノベーションを施した木造築53年の空き家には、大工さんの技術が詰まっていたんですよね。

53年前にはある意味普通とされていた丸太の梁(はり)が貴重な財産だってことを再認識したな。梁を天井に隠しちゃう人も多かったけど、それを見せたらこんなにかっこよかったんだって。

池田

昔も真面目にね、一生懸命に作っている大工さんが多かったけど、技術はあるのに良い木材が使えないから、隠れされているんですよ。隈さんは築53年の木造住宅が変わっていく姿を見て、いかがでしたか。

町の中に宝が隠れていたんだって新鮮な気持ちになったよ。自然の木の形状が感じられる梁なんて今はもうないと思っていたから。それが53年前の天井裏から出てきたということはこういう宝がいろんな町の中で眠っているのかもしれないね。

和國商店1F内装
和國商店1F内装
池田

本当にそうなんですよね。だから、リノベーションのように手をかけてあげれば、宝が蘇りますし、新しく作ったものの何倍もの価値が提供できますよね。

今回の和國商店は、すごく突出したデザインにも見えるんだけど、どこか馴染んでいる感じもしますし、僕にとって建築と街の在り方について再確認する良い機会になりましたね。

日本人から見ると当たり前なんだけど、海外の人が見たときに感じる日本の街ならではの温もりは、木造建築だってところからきてるんだよね。木造だとさ、木の寸法が限られているから、自然とヒューマンスケールになっちゃうわけよ。これは、日本の宝なんだよね。その宝をリノベーションによって再発掘していってほしいな。

ここ10年、20年、学生もリノベーションをかっこいいと思う動きがやっと日本でも出てきたんだよ。僕が教鞭をとっている大学の生徒でも、卒業設計でリノベーションを選ぶ人も多いわけよ。しかも、巨大な建物じゃなくて、小っちゃくて渋いやつがかっこいいって思う学生が増えていて。それを見ていると可能性を感じるね。若い優秀な人材がリノベーションに興味を持ってくれたら、リノベーションの質もあがってくるからさ、古いものと新しいものがどんどん交じり合って作っていく、そういう時代が来るんだって期待しているよ。

内野

本当にその通りなんですよ。和國商店を建築中からすでに「私も家を貸したいです」って方がいらっしゃったりして…それも一人とかじゃなく、複数の方にお声がけいただいているので、オープン前からすでに面白くなりそうな予感がしています。

日本でもリノベーションの市場が盛り上がってきているのは、ここにいる皆が感じていることだけど、今回の和國商店の完成は、一つのパイオニア的な事例になりそうだね。

池田

そこで重要なのがこの建築に気づいてもらえる、この場所にスポットを当ててもらえるってことなんですよね。それが、地域の発展に繋がるので、建築の影響力を改めて感じます。

そうだよね。建築ってメディアとしてみると、巨大な複合メディアだから質感もあるし、音の空間とかも全然違うじゃん。人間の全感覚を刺激してくれるのが建築だから、立派な建築物を作れば、その地域にはいろんな人を引き寄せるマグネット効果が生まれると思うよ。

この多摩エリアにもここ数年、僕にオファーが来るようになってきているから、東京の中でも多摩エリアの注目度が高まってきている実感があるかな。都心の方では、昔から持っていた街の面白さに寄り添ったものがもう作りにくくなっちゃったわけよ。そんな中で、多摩エリアがもっている日常感をかっこよくするってほうが、居心地のいい街ができるし、今はもうそういう時代になっていると思うよ。都心からの距離もそこまでなくて、この日常感を味わえるっていうのは面白いからね、一緒に多摩エリア、盛り上げましょう。

内野・池田

ぜひぜひよろしくお願いします。

日本職人のこれから

池田

僕と内野社長とは長い付き合いでお互い20年前は家族3、4人だったのに、現在のうちの会社は社員大工が13人。3分の1が大工なんです。内野社長のところもね。

内野

はい、そうなんです。うちもほとんどみんな職人です。

池田

僕らは職人を大事にしていきたくて、特にリノベーションは人の技術が必要だと思うんです。だから、技術を高めるために職人を育てていくことを重要視しているんですよね。

リノベーションはすごく手間のかかる仕事だけど、日本の建築職人の丁寧さって世界でも断然レベルが高いのよ。日本の大工さんが作るから、図面通りになるんだよね。みんなレベルが高いし、真面目だし、研究心もあるしさ、ただやらされてるんじゃなくて、みんな研究しながらやってんだよ。そんな日本の大工さんの技術の高さを改めて今日は感じたな。だから、この日本の職人っていうのが、日本文化のコアになると思っているから。これがなくなったらほんとに日本は終わってしまうかもしれないね。

ウチノ板金の工場の様子
ウチノ板金の工場の様子
内野

僕らも真鍮の折り鶴や銅板の折り鶴を世界に販売しているのですが、僕らの技術を日本だけじゃなく、世界にどんどん広めたいという狙いもあるので、建築を通しても板金の技術をどんどん世界に出したいなと思っています。

池田

世界に進出できるような職人を増やすためにも、今は、建設キャリアアップシステムという職人評価システムがあって、職人は皆がいい仕事をした時や、関わった仕事を記録で残す取り組みで職人を育てているんですよね。そして、建設職人は危険とか休みがないとかのマイナスイメージを払拭して、建設産業を敬遠していた人たちにも検討してもらえるように取り込んでいきたいと思っています。

だから、モチベーションあげんとね。建築産業が、かっこいいってイメージを作らなきゃいけない。実際にはかっこいいんだと思うんだよ。どんどんスキルアップもできるし、自分が成長できるわけだからさ。やっぱり、成長できるってすごい楽しいことだよね。ただ、お金のために仕事してるんじゃなくて、自分がどんどん成長していって、自分が大きくなっていくでしょ。建設産業も一緒だと思ってるから、そういうところもアピールしていきたいな。そして、僕らもデザイン職人みたいなチームだからさ、面白い職人たちがコラボすると、本来の力以上のものが出てきますよね。今回は特に凄かったなと思います。良いコラボが実現しました。